ガキィィッ……!
「っ、ごめんなさいっ」
「死にたいなら一人で死んでくれ。俺は御免だからな!」
そう言い切ってルークは駆けだした。本当に、こんなところでくたばってたまるか。女王の襲いかかってくる爪をぬって斬りつけると硬さに手がじんと痺れてそして鮮やかな血が飛び散り耳障りな声が耳を掠めた。やはり剣では決定打には欠けるけれどこの好機を見逃してやるつもりはない。咄嗟にルークは両手で剣を握って悶えるライガ・クイーンに躊躇いなく振り下ろそうとするとそれを阻むようにルークに向かって剣が飛んできて「、なっ……!」柄で叩き落とす。剣は見事に地面に突き刺さった。あまりのことにぼうっとしたが三呼吸分の後に怒りが湧いて衝動のままに声を荒げようとしたけれどルークと左の手の平を交互に見つめるそいつの動作がすっぽりと頭まで真っ黒な外套を包んで表情など見える筈がないのに何故だか絶対途方に暮れている顔をしているように思えてその気が削がれた。ルークは苦々しくうめいた。「殺らなきゃなあ、こっちが殺られるんだよ……」
同じ色をしたハーモニーブルーが何も知らない卵たちを見てそう言ってるのかそれとも女王に言ってるのか邪魔をしたファントムに向けられているのかファントムにはわからなかった。もしかしたら全部なのかもしれないし、どれでもなくてただ自分に言いきかせてるのかも。「下がってっ!」
瞬間、ルークは後ろに飛び退いた。そして大量の水流が女王に注がれて嘘のようにあっけなく息絶える。瞳からてらてらと大粒の水滴が伝ってきらきらと光る涙のように、見えた。「やー危ないところでしたねぇ」のほほんとした声音にルークは無意識に眉間に皺を刻む。さらに、ティアが声をかけなければ巻き添えをくらってびしょ濡れになっていた可能性に気づいて「てめぇこの野郎、」なおのことむかっときて皺の数が増えた。ティアも頭を押さえている。「で、その剣をこちらに向けますか?」鋭く煌めいたイノセントレッドにルークとティアは、はっとなった。見ると鈍色の外套がいつのまにか剣を握って立っていて、ルークは剣にティアはナイフに手を かけて気づいたイオンが待ってくださいと声をあげようとしたけれど───振り上げられた剣の行方は割れてない卵だった。「やさしいのね」
ぽつりとティアはそう言った。 同時に耳の奥で、よみがえる。「優しいのね。それとも、甘いのかしら」
何て冷たい心臓を持った女なんだろうと思った。でもそれは虚像で、しっかりと、ティアは傷ついていたんだ。謝罪の言葉を口にしなかったのは自分たちの都合で何の罪もない命を奪うことのせめてもの償いで自分なんて声が出なかったから音にはならなかったもののティアはその誘惑にすら負けないできちんと我慢していて今だったら彼女がそっと目を細めていた理由にちゃんと気づいてあげられたかもしれないのに。そう思ったら約束のこととかも色々溢れて苦しくなってティアを抱きしめていた。「ライガの女王さまが言っていたんですの。ごめんねって」
ティアは目をしばたかせた。誰に、と訊かなくてもわかる。「ボク、ぜったい伝えるんですの!女王さまの最期の言葉、ぜったいぜったい伝えるんですのっ!」
そう強く言い放つチーグルの子供を抱き上げて「うん、」煙のように姿を消したあの彼に。「会えるわ。きっと」
穏やかに笑っているティアを見て思ったことをミュウは素直に口にした。「ティアさんうれしそうですの〜」
思わずティアは落とした。「誰かあの馬鹿を黙らせてくれるッ?!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!〜〜〜〜〜っ!〜〜〜〜〜〜っ!」
行方をくらましていたファントムが帰ってきたと思ったら逃げるように自室にこもって部屋でのたうち回っていて一歩も出てこない彼を心配してアリエッタはわんわん泣き出すやらで隣室のシンクがとうとうブチ切れてちょっとダアトは大変な一日だった。- end -