Hello Again


ご機嫌よう、世界

どうして自分はここにいるんだろう。構成する音素が乖離していって確かアッシュとひとつになってローレライの驚いたような声が聞こえたようなそんな気がする。つまり、あのとき自分は死んだんじゃなかったのか。じゃあここにいるのは誰だ。「ファントム」という名前を与えられて(アッシュとつけられそうになって全力で暴れたらこの名前になった。)六神将のものと非常によく似ているたぶん神託の盾の服に着替えさせられて顔がすっぽりと隠れるいかにも胡散臭げな外套がきちんと畳んであって死んだはずのリグレットに髪をすかれているのは、どうしてだ。夢かなあとルークは思って頬を思い切りつねったら、痛かった。…………こんなに痛いのにやっぱりうめき声のひとつすら出ない。「こら。……あぁもう。赤くなってしまったではないか」無言でさすっていると、リグレットに敵同士だった頃は聞いたこともないような優しくて甘い声音で叱られた。完璧に子ども扱いだしまあこれも仕方ないのかいちおう十七歳なんだけどなあと思うものの、中身は七歳だからこの扱いは正しいのか。何だか恥ずかしくなって、ルークはそっぽを向いた。その仕草があまりに可愛らしくて、リグレットは、吹き出してしまう。

まったく、仕方のないやつだ。何処か弾んでいる彼女の声を聞きながら、ルークは思考の海に沈んだ。(アッシュの居場所を奪わずにすんだ。)(名前もアッシュにならなかった。)(なら。『ファントム』としてやるべきことは、決まっている。)今は優しいこの髪を撫でる手といつかは戦わなければいけないことをひしひしと感じて、無性に泣きたくなった。気分が滅入っていったファントムは自然と項垂れてしまう。それを見たリグレットは元気づけようとしてくれたのかその言葉がちょっと彼を地獄に叩き落とすことも知らずに、笑顔でこう言った。

「仕方のないやつだから、今晩は一緒に寝よう」
「………………………………………………………………………………………………」

リグレットが実行に移す前に誰か俺を消してくれればいいのに。ルークは半ば本気で思った。


- end -