メロン日和に仲直り


Meron!Meron!Meron!

「……何をやらかしたんだあのひよこは」 元貴族のガイラルディア・ガラン・ガルディオスことつくづく使用人の方が自分にはむいている 気がするガイ・セシルはぽつりとそうもらした。憤慨を露わにした少女の後ろをびくびくしながら ついていく赤毛のひよこを見て。





彼女の場合永遠に根に持ちそうなジェイドと違って一度きちんと謝罪をすればこんなことには ならないだろうし、それに今のルークにとって「ごめん」を言うことは無理難題ではないだろう。 何というか、ちらちらと顔色をうかがっている赤毛のひよこは(ガイにも覚えがあるような)母親 に叱られて途方に暮れている子ど───いや、これ以上は本人たちの名誉にかかわるしあま りにも不憫すぎるからやめておこう。 「ティアの話をしてたの」女性は大好きだけれど女性恐怖症なガイの為に適度な距離をとっ てアニスは答えた。こういう所が大人びてるんだよなあとアニスの心づかいを嬉しく思いながら 「ティアの?」と訊いた。 「ルークってば超〜ひどいんだよ!ティアのことメロンメロンって」 「……………………………………………………確かに」 ティアのスタイルは抜群だし。 胸、おっきいし。 たわわなアレが近くでゆらゆら揺れてたら、うん、ちょっと困る。 ルークの、メロン!という発想はあながち間違ってない。 だって。 「七歳児のお子様ですからねぇ」 と、(いつのまに話を聞いていたのか)はからずもジェイドがガイの胸中を続けた。 アニスはアニスで騒いでいて、 「ぺたー、ぺたーだって……!アニスちゃんだってあとちょおっとすればティアみたいなメロンにな るのにぃーっ!」 とぶんぶんツインテールをふり回していた。あとで覚えてろよとドスのきいた声が聞こえたよう なこともないこともないガイだったけれど報復されると怖いのであえて聞こえないフリをする。 ……賢明だ。 話を聞いたナタリアは怒りと羞恥で頬を染めながら言った。 「たっ、たしかにティアはそのぅ大きいなとは思いますけれどそれにしてもメロンだなんて。 ───あぁ、最低ですわ。ルークは七歳児ですえぇけれど甘やかしては彼の為になりません のよ!教育係だったそこで逃げ腰になっているガイ・セシル。いいえガイラルディア、……ガイラ ルディアなんとか!あなた、ルークに、どんな、教育を、しました、の?」 矛先が自分に向いたうえじりじりと詰め寄られてああ肌が粟立ってきた。とうとう背中が壁にぶ ち当たりちくしょうおっさんはおもしろそうに笑ってやがるしアニスは怖いしナタリアにゆっくりと なぶり殺されそうだし!とか思ってガイは泣き声に近い悲鳴をあげた。 ガイラルディア・ガラン・ガルディオス。 覚えやすいような覚えにくいような名前で悪かったな!




仲間たちのそんな愉快なやりとりのことなど知るよしもないルークは拳を握りしめて黙々と町 の中を進んでいく少女の背中を見て冷や汗を流した。やばい。本気で怒ってる……!なけなしの 勇気をふり絞ってそっと声をかけてみたが綺麗に無視されてそれでもめげずに今日の天気が いかに素晴らしいかで始めおいしくて有名なケーキ屋があるらしいとかあっティアが好きそうな 可愛いのが売ってるぞとか色々気をひいてみたがそれでも駄目で(可愛いものあたりでぴくり と反応しかけた)だんだん苛ついてきたルークはつい、「………………………………メロン」と言ってしまっ た。かなり小さなぼそぼそとした声だったけれど、音律士のティアにはばっちり聞こえていたら しい。くるっと反転すると、ティアはわあっと大声でわめいた。 「だっ、だれがメロンなのよぉっ!わたしだって好きでめ、めろんになったわけじゃないのにっ。 めろんめろんって馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの、馬鹿じゃないのっ!」 わりと本気で怒っているらしいティアを見てルークは心の中で頭を抱えた。熟れた林檎のよう になって叫ぶ彼女をちょっと本気で可愛いと思ってしまったけれどそんなことをうっかり言おうも のなら当分、絶対、口をきいてもらえないし、だって本当にメロンじゃないかとこれも喉から出 かかったけれどティアのこの剣幕だと殴られかねないから一生懸命チャックをする。一体どうや ったら許してもらえるだろうか。必死で思考をめぐらしていると昔ガイに教えてもらった仲直りの 方法が思い浮かんだ。特別な人にしかしちゃいけなくて、悪いことをして心からその人に許し て欲しいなと思ったときで、そういえば、昔はよくガイとかにしてたかも……。 「ティア、」 あっルークちょっと待てとかガイの焦ったような声にお前が教えてくれたんじゃないかとか首を ひねりながらそれでもかまわずにそのとびっきりの仲直りの方法を久しぶりにすることにした。


いつもより低めな声で名前を呼ばれて思わずどきっとした。ついさっきまであまりにも無神経す ぎる発言に腹を立てていた筈なのにうるさいくらい心臓が走りだした。ゆっくりと降りてくる対の ハーモニーブルーにくらくらする。逸らしたいのにその色から逸らせなくて吸い込まれていくよう な錯覚に胸とか全部が甘く痺れるような、感じ。降りてくる、ハーモニーブルーが息がかかるく らいになった頃にティアは我に返ったけれど、時はすでに遅かった。目の前には燃えるような サンセットスカイと水みたいに透き通ったハモニーブルーがあって、くらくらからぐちゃぐちゃに なってすべてが溶けて真っ白になって、頬には。 「ごめん。ホントに、ごめんな」 とか胸がときめくような笑顔でほざいた気がしたけれど、思考がうまく回らなくてまわりの人の 視線を認識した瞬間体温がはね上がってもう何が何だかわからなくなったティアは町のど真ん 中で固まった。途端、拍手喝采やら悲鳴やらが大爆発を起こした。 「ひゅーひゅー赤毛の兄ちゃんやるねえ!」 「あれまあ、お幸せに〜〜!!」 「けっ、けしからん――――――――――――!」 「若いっていいねぇ〜〜あはん」 「くぉらそこの赤いのこぉんな往来でせっぷ、」 「あなただって昔はあんなものだったじゃないですか」 「それは言わない約束だよ、おまえ」 「何だい何だいこの騒ぎは」 「ヤだあ知らないのーっ今ここでねぇ、」 「こ、子供は見ちゃいけません!」 「ママ。僕大人になっちゃったよ」 「キャ――――――――――――!!」 「っきゃー!メアリーさんが倒れたーっ!!」 …………何か、凄いことになっている。 その凄いことを引き起こした当人はものすごく殴り倒したくなるような顔をしていたけれどあまり にきょとんとしすぎていたからどうしようもなくなって、ふり上げたこの感情を何処にぶつければ いいんだろう。腹を抱えて大爆笑しているジェイドにか。 「―――っ、い、いま、なにしたかわかってるのっ」 声がひっくり返ったのは仕方がない。絶対。だ、だってルークに、頬を。ほんとうにもう心臓に悪 すぎる!意味が伝わっていないのかむかつくくらい平然としているルークを見て慌てている自 分が馬鹿みたいに感じられたが、でも彼に突然キスされたのは(頬だけど)夢ではなく現実な んだから自分のこの反応は当たり前なんじゃないかと思う。―――この時点で、ティアは気づ くべきだったのかもしれない。ねぇねぇ空はどうして青いのと小さな子供にちょっと困ることを尋 ねられた大人と似たような表情をして、彼はこう答えた。 「仲直り」 ティアはどこか遠くで何かがぶち切れる、そんな音が聴こえたような気がした。 「ルーク、」 え。 とルークは思ったが本能で何かを悟ったように猫背気味の背筋がしゃんと伸びる。何だ。絹の ように長い髪に隠されてティアの表情は見えなかったけれど、その声は極寒で吹く風のように 冷たくてついでに物騒すぎる響きを持っているような……。 「こんなこと、だれに、おそわったの?」 ルークは震え上がった。だって甘くて優しいのは声だけで可愛らしく首を傾げていても表情は 完璧に消え失せているし瞳にはもう間違いなく物騒な光が宿っている。それはもう命の危機を 感じるくらいだったのでルークは素直に白状した。抵抗する気なんて微塵もない。だって逆らっ たら首を刎ねられそうな感じだった。 「………………えっと、ガイです」 ティアはそれはもう花のように美しい笑顔を浮かべて、譜歌を歌い始めた。 …………獣のように凶悪な目つきで。




おち、おちつくんだティアせっかくの君のきれいな顔がヒロインってゆうか むしろ魔物で登場してもおかしくないくらいすごいことになっちゃってるからそのつまりぎぃゃあああああああああああああああ




(ちょっとした復讐心がこんな形で返ってくるなんていったいなんの因果ですか)

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