キングズベリィ


King's Berry

「……転職するつもりですか」敷き詰められた色鮮やかな美女たちを見て、ジェイドはそう呟いた。「それもありかもなー」まんざらでもなさそうにピオニーは言った。この幼馴染みの冗談が微塵も冗談に聞こえないのが恐ろしい。「非常に迷惑ですからやめてください。貴方には、玉座が一番似合う」心底嫌そうな親友の声にけたけたと笑った。何となく一輪を抜き取って軽くくわえると、舌が軽く痺れて思わず眉を寄せる。ついでにジェイドも皺を寄せていた。「気が狂っちまったわけじゃあないから、安心してくれ」んべ、と吐き出した。何か言いたそうな顔をしていたがジェイドは結局何も言わなかった。


あれを恋に数えていいのかどうかわからないけれど、まあ恋に似ているものだから恋だったとしよう。最初のは、身分に邪魔をされた。二回目は、世界に邪魔をされた。「あーあ。どうしていつも叶わないんだか」そんな呟きが自然と洩れて、だらりと椅子に寄りかかっていたらやりすぎてそのまま後ろにひっくり返った。薄情にも近くにいたジェイドはさっと避難した。「……おいおいおい、皇帝陛下を助けろや」思ったより痛くて恨み言が口をついて出た。「下手くそだからじゃないですか」「あぁ?俺、ちゅーとかえっちとかそれなりに自信あるぜ?」不意打ちに思考がついていかなかったのがばれるのが嫌で、ピオニーはわざとらしく肩をすくめて言ってみせたけれど、ジェイドの瞳は笑っていなかった。「陛下は、わりと本気の色恋沙汰には、不器用でいらっしゃるから」ぽつりとそう言われて、ピオニーは言葉を失った。「これ、散華なんでしょう?」つくづくこの幼馴染みは厄介だ。でも生憎とそんな純粋に悼む気持ちなんかじゃない。「そんなんじゃあないさ。ただ、あいつが好きな花は、どれだったんだろうなあって」


「世界か、愛の逃避行かどっちか選べ」「何ですかそれ」赤毛の子供は肩を震わせて笑った。わりと真剣だったからそれがプロポーズみたいになってしまったことにこのときのピオニーは気づかなかった。「ありがとうございます。ピオニー陛下」そう言って、頭を下げた。


そうして今日もあの子供が好きだと言った花を探す。世界の為に殺したせめてもの償いに。


(王の宝石がどっかいっちゃった!)


- end -